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ライフログ
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2014年 05月 01日
EXPO 8th Album / 1991.9.5 singles : Love Train/We love the EARTH(1991.5.22) 1. EXPO 2. We Love The Earth (Ooh, Ah, Ah, Mix) 3. Love Train 4. Just Like Paradise 5. Jean Was Lonely 6. Crazy For You 7. 月の河 / I Hate Folk 8. あの夏を忘れない 9. 大地の物語 10. 月はピアノに誘われて 11. Tomorrow Made New 12. Think Of Earth ・・・ ガボール・スクリーンが「ソング・オブ・プカラ」をリリースし、 英国中のリスナーの非難と罵倒を浴びる1991年、現実世界では、 ガボール・スクリーンよりも先に本家TMNが批判を浴びていた。 『RHYTHM RED』で提示されたハードロック寄りのサウンドに、 TM NETWORKの頃のスタイルを求めたFANKSが拒絶感を示していた。 そんな中、小室は離れていったFANKSに「戻ってきてほしい」と 呼びかけるような新曲「Love Train」をリリース。 そして秋、TMN名義で2作目となるオリジナルアルバム『EXPO』を発表した。 アルバムジャケットはイラストレーションである。 「TMN EXPO」と書かれた白抜きのデザインロゴが画面上側にあり、 右上に月、その下に地球の一部が映り込み、 ど真ん中をシュールなデザインのピアノっぽい物体が遊泳している。 その物体の真ん中には丸い窓があり、 どー考えてもあの人らにしか見えない3つの人影が見える。 裏ジャケット(もしくは外側ケースから取り出したデジパック型ケース)には、 その3人が窓の外を眺めているというシーンが描かれている。 手前から小室っぽい人、ウツっぽい人、木根っぽい人がおり、 3人共、寝てる間に改造手術をされてて慌てて逃げ出してきた様な格好である。 木根っぽい人の腕なんか完全にロボットアームじゃないか。 あと、その木根っぽい人の隣の巨漢は誰なんだ。 後ろにいるロボットは案内役だろうけど。 彼らの背後には、これまたシュールな形の物体が並んでいる。 これらのイラストが、このアルバムのテーマを表している。 本作については「月とピアノ」というワードがよく聞かれるが、 これはあくまでイメージとして設定されたものだろう。 2枚のイラストを読み解けば、 「3人の潜伏者(+α)が宇宙空間を漂うピアノ型宇宙船から地球の姿を眺めている、そしてこの宇宙船は博覧会の会場である」 ということになる、と思う。 インナーには曲目と共に 「TMN EXPO PAVILION MAP」と称したイラストがあり、 ・中央のパビリオンはメインテーマを含みます。 ・その他のパビリオンは様々なトラックを描写します。 ・全部で12のパビリオンがあります。 ・あなたがどのパビリオンのドアを開けるかは、あなたの選択の自由です。 という旨の文章がたどたどしい英語で書かれている。 つまり、各楽曲がこの博覧会の「パビリオン」ということである。 ジャケットに登場する「ピアノ型宇宙船」をモデルに、 「EXPOピアノ」も製作された。 本作を引っ提げたツアーでも、ステージ上にシンボル的に存在し、 曲によってはこのピアノが使われることもあった。 10数年後に「開運!なんでも鑑定団」にて小室が鑑定を依頼し、 骨董品でもないのに過大評価としか思えない金額がついた。 当時、ご本人がかなり困窮していた頃の話である。 ピアノは2台作られており、1台はヤマハが保管、 もう1台は小室から買い取ったとある業者がナントカオク!に出品……。 買い手はついたんですか……? ちなみに、本作で使用されているフォントが面白いと思ったことがある。 「Gill Sans」と呼ばれるフォントで、小文字の「t」の形などが特徴的である。 ・・・ ○EXPO (曲:小室哲哉) 遠くから聴こえるピアノの音。 単音が一定の間隔で飛び込んでくるが、 一音一音、よく聴くとおかしなことに気付く。 音が逆さではないか。 「おぉしゃぅいっすうぉ〜〜〜ぉあ……」 「あーっせゃぇっ……えーぃや……」 「あーどーm、あーどーm、……」 何処かで聴いた声が謎の言葉を発している。 多分、あの3人の声の筈……。しかし何を言っているのか。 無機質な効果音やシンセベースのような低い音も混じってくる中、 この不可思議、というか不可解な音世界は、 実に不可解な盛り上がりを見せる。 どう聴いてもあの人があの姿勢で即興で弾いているピアノである。 ……と思ったら突如トーンダウンし、音が途切れる。 その後、ヘッドフォンの片方から低い音が入ってくる。 途中からもう片方にも音がカットイン(ミス?)、 まるで宇宙船が物凄いスピードで、その航跡を残していくかのように、 衝撃音がディレイして終わる。 ……!!!??? これがこの博覧会のメインテーマなのか!? こういう曲なので、ファンの間ではウワサが絶えなかった。 「TMNの今後に関するメッセージが隠されている」とか、 「これを最後に解散するとか言ってるんじゃないのか」とか、 「ゼロムスからダークマターを盗むとビッグバーンのダメージが減る」とか、 「オメガと神竜を倒して海底のモアイ像に行くと何かが起きる」とか色々。 (後半2つは何だよ) この曲に関してメンバーは、 「CDの逆再生が可能になったら改めて聴いてみて」と発言していた気がするが、 現在ではCD音源の逆再生が(PCで色々どうにかして)可能であるので、 実際にこのトラックを逆再生、つまり録音時の状態で再生してみると…… ディレイがかかってて何言ってんのか分からん! ただ単純に録音したものをリバースしたのではない、と。 ひとつ、木根が「おかーをこーえーゆこーおよ♪」とか歌ってるのは分かる。 こんなんが博覧会のメインテーマかい!! 何にせよ、「ウーロン茶☆ヌルヌル」等逆再生ブームの先駆けとなった曲(嘘)。 ○We Love The Earth (Ooh, Ah, Ah, Mix) (詞曲:小室哲哉) パーカッションとサンプリングボイスが絡み合うループが、 月に照らされた夜の森林地帯を思い起こさせる。 色とりどりの花が咲き乱れ、鳥や蝶が舞い踊りながら、何処か寂しげな楽園。 そこはこの世の果てなのか、いや、もしかすると 人が皆何処かへ去ってしまった後の地球なのかも知れない。 この地球上にたった2人だけ残された男女。 この2人が、それぞれの長い孤独な旅路を経て、 この森の中で巡り逢おうとしているのだ。 ある日、とある街で蜃気楼を見た青年。 その蜃気楼がくれたヒントを頼りに、青年はその場所を目指す。 そこに行けば、蜃気楼が映し出していた「君」に出逢える筈。 きっと「君」も同じように、何処かで蜃気楼を見て、「僕」を探している筈。 「僕らはただの、この地球上の生き物でしかない」 我々はこの地球に産み落とされ、この地球に生かされている。 その事に気付きもせず……いや、気付かない振りをして、 この地球を自分たちの都合の良い世界に作り変えてきた。 きっと、払うべき代償は大きいものになっているのだろう。 こんな荒廃した地球の上で共に生きていく人を見つけ出す為、 その人と遠い、険しい未来を共に生き抜く為に、青年は約束の場所へ向かう。 25thシングルとしてリリースされた「Love Train/We love the EARTH」の 2曲目のアルバムバージョン。 クラブサウンドを意識したミックスになっているようで、 ウツはこちらのテイクがお気に入りの様子である。 私は「ミュージックステーション」で初めてこの曲(オリジナル)を聴き、 その後カメリアダイヤモンドのCMでも何度か耳にしたが、 このアルバムで聴いてみて、 「え?この曲こんなに大人しい、つうかスカスカな曲だっけ? もっと華やかだったような??」と思ったもんである。 尚、上記「Mステ」出演時に、 サビの歌詞について司会陣にこう突っ込まれていた。 生島ヒロシ「君に会うために生まれた、ってどうですか」 森田一義「んなこと言えないでしょ〜恥ずかしくてwww」 生島ヒロシ「果たして小室さんは一体誰に言うんでしょうね?」 ということでこの曲は、 この地球上で出逢う奇跡を歌った超一級のラブソングである。 恋い慕う対象に自分の生まれた意味・意義を見出し、 「僕らは地球のちっぽけな生き物でしかないけど、 この地球に生まれたから君に逢えた!君と愛し合えた! 地球大好き!ビバ地球!!」 という、卑近な感情に"地球礼讃"を無理矢理ねじ込んだ歌詞になっている。 シングルバージョンは2人の出逢いの高揚感、多幸感が溢れた 爽やかなポップナンバーに仕上がっていたが、 (それ故に「前作でのリニューアルは何だったのか」という疑念も上がらなくはなかった) 本作でのアレンジだと、前述(妄想)のような、 人っ子一人居なくなった大自然の中で、 新たなる時代のアダムとイブが誕生したかのようなムードだ。 全体的に一本調子な感は否めないが、 使われている音色、随所に散りばめられた音に、美しさを感じさせる部分もある。 「Ooh, Ah, Ah, Mix」というクレジットにはエロスを感じさせるものがあるが、 イントロのサンプリングボイスに由来するのだろうか? まぁ何つうかカエルの鳴き声にも聴こえるけど。 尚、シングルバージョンに音を加えたリミックスが『CLASSIX 1』に収録された。 本作を引っ提げてのツアーの最中で行われたスペシャルライブ 「TMN WILD HEAVEN」での音源が『GROOVE GEAR』に、 2012年の武道館公演「Incubation Period」での音源が 『LIVE HISTORIA M』に、それぞれ収録されている。 2021年配信ライブ「How Do You Crash It? one」で披露された際には、 全体的にマイナーキーで再構築した陰のあるアレンジとなっている。 このアレンジは2022年「FANKS intelligence Days」ツアーでも披露され、 2023年のアルバム『DEVOTION』にも収録された。 全くの余談であるが、よく「黒歴史」とか 「『トランスフォーマー コンボイの謎』と並ぶクソゲー」とか言われる ファミコンソフト「TM NETWORK LIVE IN POWER BOWL」。 TMの活動が一旦休止した1989年の末に出たものだが、 無理難題をクリアしてあっけないエンディングの後、 「WE LOVE EARTH」というメッセージが表示される。 ○Love Train (詞曲:小室哲哉) 25thシングル「Love Train/We love the EARTH」の1曲目、 こちらはシングルバージョンそのままで収録。 但しイントロが前の曲のアウトロと僅かにカブっている。 シングル盤の両A面、或いはメインとカップリングの関係にある2曲を アルバムで逆の曲順にする例は結構多い。 前曲に続く、カメリアダイアモンドのCMソング第2弾で、 実はこれがTM史上最も売れたシングルとされている。 (オリコン調べで50万枚だが、70万枚とのデータもある) うねるようなSEから始まり、 パーカッションとディストーションギターのバッキング、 そこにシンセのリフが絡み、 ピアノとクリアなギターがノスタルジックな音を紡ぎ出す。 やや長いイントロの後、歌い出しはサビから始まる。 こちらもハウスのリズムを基調としたアレンジで、 その曲調のせいか、地上を疾走する列車ではなく、 天空へと、宇宙へと昇っていく"銀河鉄道"的なイメージを抱く。 但しジョバンニもカムパネルラも、メーテルも星野鉄郎も登場しない。 ここに登場するのは、失いかけた愛に縋り付く青年と、 捨て去ろうとした愛に追い縋られる女性。 「アクシデント」とも共通するテーマである。 「涙の惑星 痛みの流星 大地の嘆き聞こえる」と、 前曲同様、地球環境に対する問題意識を無理矢理差し込みつつ、 心離れていく「君」に対する、青年の諦め切れない想いを叫んでいる。 両A面の「We〜」は、メロディもサウンドも 旧来のTM NETWORKに寄せた感じがするが、 「Love Train」はこれまでになくドラマティックなメロディの進行であり、 一方でゴシック的な雰囲気も感じさせるものがある。 この頃より、小室はカラオケを意識した曲を志向し、 起伏の激しい展開で歌い甲斐のある曲を目指すようになっていた。 しかし、歌メロがドラマティックでシリアスな割に、歌詞は散文的。 物語を描くというより、主人公が胸の内に秘める想いを歌にしている。 表現も抽象的なものが目立ち、やや説得力に欠けるきらいがある。 そもそもタイトルだって、「何故列車を持ち出したのか?」とも思うし。 歌詞中には「Love Train」と「この汽車飛び乗って」ぐらいしか 関連するものが出てこない。 基本的に鉄道列車は、レールを走り出したら一方通行の乗り物である。 一度乗ってしまえば前へ進むのみで、乗客は後戻りが出来ない。 そんな"愛の汽車"に「君」と共に乗り込み、 2人だけの愛の世界へ辿り着こう、という意味合いだろうか。 バージョンとしては、元々アルバム用に「CLUB MIX」が作られていたが、 シングルのヒットもあり、シングルバージョンがアルバムに収録され、 「CLUB MIX」はアルバム購入者への懸賞品CDに収録された。 (後に20周年のファン投票ベスト盤『Welcome to the FANKS!』に ボーナスディスクの中の1曲として収録) 前曲もクラブ向けリミックスで尺が長いので、 長たらしいダンスナンバーが続くとダレ気味になっていたかも知れない。 ここはシングルバージョンで正解だったのではないか。 尚、「CLUB MIX」は「Mステ」でも披露されたが、 当日、木根は病気で欠席したいた。 小室とウツが2人でパフォーマンスする様を病院のテレビで見た木根は、 「早く退院しなきゃと不安になった」とのことである。 この「CLUB MIX」に音を付け足したのが『CLASSIX 2』に収録のバージョン。 更には『NETWORK™ -Easy Listening-』においてセルフカバーもされている。 ライブ音源も幾つかCD化され、「EXPO ARENA」の音源が 『COLOSSEUM II』『LIVE HISTORIA M』(それぞれ別ミックス)に、 「4001 DAYS GROOVE」初日の音源が『final live LAST GROOVE 5.18』に、 「START investigation」の音源が『LIVE HISTORIA T』に収録。 配信ライブ「How Do You Crash It? two」でも披露された。 ○Just Like Paradise (詞曲:小室哲哉) 4つ打ちのキック音によって、 眼前には瞬く間に照明のギラつくクラブの風景が広がる。 そこには普通の客はいない。異星人ばかり、そんなシュールな光景だ。 流れ星が「ヒュウウウウン」と夜空を駆け抜けると、 客の異星人たちが一斉に声を揃えて叫び出す。 「ザ☆つらい!!!!」 全編英語詞のダンスナンバー。 ボーカルはA・Bメロでラップスタイルをとっている。 しかしライムとかレトリックに拘ったようなシロモンでもなく、 ヒップホップの楽曲のようなキレがあるものでもない。 聴く者に語り掛け、誘い掛けているような歌い方である。 「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した文豪を気取ったのか、 まずAメロを意訳してみると 「君が好きだ君の笑顔が好きだ月や星のように綺麗な君が好きだ」 みたいなベタな口説き文句が並べてある。 BメロはBメロで、Aメロよりかはラップにキレを見せるが、 「誰もが何処かで夢を叶え誰もが何処かで地球と月を愛しているシャラララシャラララシャラララシャラララ」 ってな具合でほんとに中身の無い歌詞だなこれ。 後のEUROGROOVEにおける小室英語詞に共通する中身の無さだと思う。 申し訳ばかりに月と地球をブッ込んではいるが。 サビはウツではなく、葛G(葛城哲哉)と女性シンガーのコーラス。 (「BURNIN' STREET」もウツがサビを歌わないけど) 「月明かりの中で夜通し僕と踊ろう 君が抱き締めてくれたらそこはパラダイス」 ……纏めるとそういう歌詞である。 極めて平易な英単語のみが使われた口説き文句だ。 とにかくパラダイスが欲しいということだけは伝わってくる。 頽廃した人々の自堕落なクラブ通い(しかも異星人だらけ)の様相を呈している。 多分、ラップ主体で全編英語詞の曲を作ろうとして、 「小難しい英単語とか分からんし聴いてる人も分からんじゃろう」ということで こうなったのかも知れない。 曲自体、恐らく"FANKSの再来"を意識したものと思われる。 前作でFANKS自体をブッ壊してしまったと思いきや、 そのFANKSを再構築してしまったのがこの曲。 当代のクラブサウンドに乗ったラップやソウルフルなコーラスは、 かつてのFANKSコンセプトで取り入れていた黒人音楽にも通ずるものがある。 「EXPO ARENA」でのライブ音源が『LIVE HISTORIA T』にてCD化。 2年後にリリースされる『CLASSIX 1』では、 新規のシーケンスフレーズを被せたリミックスがなされている。 それ以降、忘れ去られた曲になったかと思われていたが、 30周年の締め括りに行われた2015年のライブ「30th FINAL」では、 オープニング曲としてリメイクされファンの度肝を抜いた。 ただし、曲の尺は短縮されている。 このバージョンは同年4月、30周年明けにリリースされたシングル 「Get Wild 2015」配信版のカップリングに収録された。 ○Jean Was Lonely (詞:坂元裕二 曲:小室哲哉) 単音のピアノのフレーズから始まるこの曲。 ラテンパーカッションのリズムが絡むダンスビート。 嫋やかな、かつ自由奔放なジプシーの娘のように舞い踊るピアノと、 それを陰で見守る男のようにゆったりと流れるベース。 時折入ってくる無機質なディストーションギター。 ライブではシンセによるブラスが入り、よりゴージャスなアレンジになる。 (ごちゃごちゃうるさくなった、とも言うが) タイトルは、「ジーンは孤独だった」。 前曲からの流れとして勝手に想像すれば、 クラブで寂しそうな美女を見つけ、 その艶やかな容姿と寂しげな仕草に惹かれた男が あーだこーだ言って誘っている、といったところか。 フラれたばかりの恋に未練を抱いている彼女に、 男は「マイナスとマイナス、プラスになるさ」と 自分も寂しい独り身アピールをし、詩的な言葉を並べてアプローチする。 これもはっきりいって口説きの歌詞である。 ちなみに「ジーン」の名前について、 坂元氏は当初「Jane(ジェーン)」と書いていたが、 メンバーが「ジーン」と読んだので 「Jean(ジーン)」に直したとか。 確かに「ジーン」のがしっくり来る気がする。「ジェーン」じゃベタな感じだ。 「ジーン」といえば、「ノーマ・ジーン」という名前をよく聞くが、 これはマリリン・モンローの本名(の一部)だそうな。 マリリンのような華やかながら影のある女性をイメージしているとしたら なかなか面白いと思うのだが、これは個人的妄想でしかない。 また、サビの歌詞にはU2の曲から引用したのではないかと思われる フレーズもチラホラ見られる。 参照元は「With Or Without You」(1987年)と 「Two Hearts Beat As One」(1983年)だろう。 坂元氏はU2が好きだったのだろうか。 それともウツ→U2、という連想からだろうか(違うか)。 ファンの間では結構人気が高いらしく、 投票ベスト盤『Welcome to the FANKS!』にも収録された。 また『LIVE HISTORIA T』に「EXPO ARENA」でのライブ音源がCD化された。 確かにカッコいいし、好きな曲の部類に入るのだが、 この曲の難点を挙げるとすれば、冗長であること。 6分40秒もあるのである。 「GET WILD '89」で味を占めたのだろうか? イントロが長い。間奏も長い。オーラスも長い。 何か色々長い。 「RHYTHM RED BEAT BLACK」も、あれだけ単調だから長く感じたが、 この曲も間奏とかで工夫を感じられない。 これもクラブシーンを意識はしているのだろうか。 皆さんこれで踊って下さい、みたいな。 ラジオ「TMN UNITED」での投票企画「TMN10」での 「スポーツにピッタリなTMNの曲ベスト10」では、 ベスト10圏外ではあったもののこの曲が紹介された。 「ラモスのテーマっぽい」というコメントがあった。 そう、Jリーグカレーを食ったまさお君が進化したあのラモス瑠偉です。 ○Crazy For You (詞:坂元裕二 曲:小室哲哉) 本作の中盤には、TM NETWORK〜TMN史上、 最も大胆な試みを行ったと思われる2つのトラックが収められている。 そのうちの1曲は普通のボーカル曲ではなく、 曲の中で男と女の会話が続く、いわば"BGM付オーディオドラマ"である。 「フハハハハハハハハッ、ァハハハッ、アハハハハハハハハハ・・・」 野太い高笑いから始まり、そこにハウスビート、シーケンスのフレーズ、 「Wow wow wow...」のコーラスやサンプリングボイスが絡み合う。 けたたましい笑い声と、 何を言っているやら分からないツギハギのコーラスの裏で、 電話の回線音が聞こえてくる。 「あ、もしもし、僕」と、ある男が電話を掛けている。 相手は「遅〜い!」とスネた様子。声からして女性だ。 男は「今、青山通りなんだ、あと5分で着くから」。 相手の家に向かっているが、相当待たせているらしい。 「アンコール鳴り止まなくてさぁ」と遅れた言い訳をする男。 この言い訳からして、彼はミュージシャンであるらしい。 「来ないくていいよ、他の人来てるし」と相手の女。 これはジョークだとすぐ分かるのだが、こう言ってしまう辺り、 彼らはおそらく何処かの店で知り合った程度の仲なのだろう。 つまりこのストーリーは、とあるロックスターと夜の女の、 秘めやかな、かつ、行きずりの関係を描いているのだ。 バックトラックでは、この物語を優雅なフレーズの反復で彩る。 シンセによるブラスセクションと、 「Wow wow wow... Crazy for you...」のコーラスの入り方は、 まるで心臓の鼓動のようなハウスビートと共に、 この男女が胸の内に秘める感情の昂りを良いタイミングで表現している。 高層マンションの中の自分の部屋の場所を伝える為に、 モールス信号の如く部屋の明かりを消してみる女。 女が男へ向けたそのサインは「Crazy for you」。 バックトラックが次のフレーズに入ると、場面は女の部屋へ。 車はガード下に停めたという男、それは違法駐車ではないのかと思うし、 それ以前に彼は電話しながら車を運転していた訳だが、 そういった辺りはここでは置いとくとして。 当時の道交法がどうなっていたのかは私は知りません。 世間的にも名を知られ、見られるとマズい立場にある男と、 某写真週刊誌にチクる、とジョークを飛ばす女。 男も本気ではないと分かって、軽く受け流す。 そんな軽い駆け引きの後、男は女にルームライトを消すように言う。 その後、セリフはしばしの間無くなるのだが、 このセリフ無しの間に、2人は刹那の快楽に溺れたのだろう。 この女の部屋のシーンのバックトラックのフレーズは、 スローで憂いを帯びたメロディになっており、 誰にも言えない密会の後ろめたさが表れたものになっている。 それに合わせて、何者かのがなり声もひっそりと紛れ込んでおり、 まるでこの男の醜聞を付け狙うパパラッチの現場実況のようだ。 但し、何を言っているかは聴き取れない。 また、時折「ザティーチャー・・・(?)」という男声SEも入り、 シーンの終わりがけのところでは「ヴァrん・・・(?)」と入る。 2人が暗闇の中で情事に耽り出すと、 本曲は、ある意味サビと言うべきフレーズに入る。 リズムのループと共に、優しい波のようなストリングスと例の高笑い。 やがて高笑いは消え、「Wow wow wow... Crazy for you...」のコーラスと、 サンプリングボイスによるスキャットが繰り返される。 「海の中にいるみたい……」 女が呟く。付けっぱなしの、もう放送も終わってしまったテレビだけが、 2人だけの部屋を照らしていた。 ここから2人のピロートーク、後ろめたいフレーズが流れる。 そしてこの場面でもパパラッチの現場実況が入り、 また「ふぁっせ・・・(?)」という男声SEも入ってくる。 男の汗の量に感嘆する女に、「バラード一曲分だよ」と男。 水を欲しがる男に、「ちょっと待っててね」とベッドを出ようとするも、 恥じらってシーツに裸身を包む女。 まだ男のライブを観たことがなく、明日観に行きたいという女。 「無かったっけ?」という男の一言から、また意地悪な駆け引きが始まる。 「誰(他の女)と間違えてるの?」 「じゃあ、何処で逢ったんだっけ?」 「忘れたのぉ!?」 「忘れたな……」 「そうやって私のこともすぐ忘れるんだ……」 「忘れたら……もう一度出逢えるさ」 これらの台詞が、2人の関係の儚さを強調しているようだが、 その一方で「一度離れても、また巡り逢える」という "縁や絆というものの底知れぬ強さ"も、ここでは示唆されているように思う。 フレーズはいつしかサビのパートに入っており、 しばしセリフが無くなった後、物語は最後の場面に入る。 水の流れのようなストリングスと鼓動のループ、 ブラスセクションと「Wow wow wow... Crazy for you...」のコーラス、 そしてひたすら続いている高笑いは、物語を終わりへと導いていく。 別れを惜しむ2人。名残惜しそうな女を、男は明日のライブに誘う。 「マネージャー知ってるよね?」と言う辺り、 2人はライブ後の打ち上げの店で知り合った可能性もある。 「一万人の中の一人」という女の言葉は、こんな儚い関係ながらも、 自分が特別な存在になれたという喜びだろう。 (そして「一万人」というワードから、会場がアリーナクラスだということも窺える) 女は「明日の夜は来れる?」と尋ねる。 男は「ステージの上からサインを送るよ」と答える。 男が女に送るそのサインは「Crazy for you」。 ……以上、7分超に及ぶダンスナンバーの中で繰り広げられる、 脚本・坂元裕二、音楽・小室哲哉、 出演・宇都宮隆とHiromi Hazamaという女性によるドラマであった。 この曲についてよく知られているのは、 笑い声及びがなり声の主が伊集院光であることだろう。 ブックレットには「Crazy Laughter」と表記されている。 TM35周年の2019年にもその事はテレビで触れられており、 クイズ番組「Qさま!!」にて小室に関するクイズが出題された際、 解答席の伊集院氏が「実は僕、小室ファミリーなんですよ!」と発言。 本曲におけるこの笑い声が紹介されたのである。 小室曰く「僕が作った枯山水にブルドーザーがやって来た感じ(良い意味で)」 だそうだが、しかしこれが枯山水なんて崇高なもんだとしたら、 何君らはこんな御大層な場所で乳繰り合っとんのやと ウツとHazamaさんに言ってしまいたくなる。 伊集院氏は、後の1992年にラジオ番組「伊集院光のOh! デカナイト」の企画で 久保こーじと「荒川ラップブラザーズ」を結成、CDデビューも果たしている。 尚、1994年4月21日の「TMNのオールナイトニッポン」の前番組が、 この伊集院氏の「Oh! デカナイト」であった。 TM史上でも類を見ないその特異性から、 好き嫌い関係なく印象に残っている人は多いと思う。 しかも、ここまでディープな男女関係に触れた内容はかつてない。 以前の楽曲、特にデビュー期の楽曲にも 色っぽい、というより性的欲求をチラつかせる淫靡な歌詞は見られたのだが、 TMNになって詞の内容も随分と年相応になってしまい、 かつての様な、青少年っぽさを漂わせたTMとはかけ離れ、 ファンの幻滅感も目立っていたのではないかと思う。 私は初聴きの時は中坊だったのでこれらの会話の意味が分からなかったし、 一部のセリフは今でもSE等に邪魔されてよく聴き取れなかったりする。 特に、曲そのものはめっちゃ好きなのに、 この歯の浮くような内容のドラマは聴くに耐えないという方もいただろう。 『THE SINGLES 2』には台詞一切なしのインストゥルメンタルが収録されている。 ライブ演奏ではプログレッシヴ・ロック調にアレンジされており、 コーラスの部分だけウツが歌う。 このアレンジは「EXPO ARENA FINAL」からの音源として 『COLOSSEUM I』で聴くことが出来る。 ……と、本作におけるダンスビート路線はここで一旦終わる。 伴奏が終わっても伊集院氏の笑い声は少しだけ続くが、 ちなみに私個人が伊集院氏の笑い声で一番印象に残っているのは、 1994年頃に放送の「コサキンルーの怒んないで聞いて!!」という番組にて。 蛭子能収が何らかのトボけた行動を見せ、 それに対し山瀬まみが「しっかりしなよ!!」と一喝したところで大爆笑が起き、 その時、伊集院氏は「アーッハッハッハッハwwwww」と、 この「Crazy For You」以上に甲高い笑い声を上げていた。 ○月の河 / I Hate Folk (詞曲:木根尚登 (月の河)・宇都宮隆 (I Hate Folk)) 前曲での伊集院氏の笑い声が途切れ、ドアが閉まる音で次の曲に入る。 コンコンコン、という音の後、アコースティックギターの音色が。 「そしていつものように、君を自転車に乗せ……」 フォークデュオが歌っている。長閑な歌だ。 自転車で川沿いの道を走っているカップルの歌らしい。 何気ない日常、何気ない幸せを素朴に歌う曲。 音がくぐもっているが、 外で歌いながらカセットテープにでも録音している感じだろうか。 「青い夜が揺れているよ……」 ゴトン。 「……ん?」 突然、鈍い物音。同時に演奏が止まる。 「ヒャアアアアアアアア!!!!!!!!」 何処からか、絶叫が聞こえる。 闇夜に紛れ、怪しげな集団がフォークデュオを睨み付けていた。 髪を逆立て、ド派手なメイクをし、 全身黒タイツに鎧の如きコスチュームを着た厳つい集団だ。 ドラムのカウントが入り、 フォークとは打って変わった、重低音重金属系の音が聴こえてくる。 ギター、ベース、ドラムがザクザクとリズムを刻んでいく。 「……ん?」 主人公は何やら禍々しい気配を感じながらも、 それが何者なのか把握出来ていない。 騒々しい音が、遠くから聴こえてくるだけだ。 ゴトン。 「風を追い越していく……」 再び鈍い音が入ると同時に、攻撃的なサウンドが止まる。 何事もなかったかのように、フォークデュオが演奏を再開。 「僕の背中で君 笑っていr「ヴェアアアアアアアアア!!!!!!!!」 主人公の背中で笑っていたのは「君」ではなく、怪しげな集団だった。 闇夜から飛び出し、フォークデュオの前に立ちはだかる、謎のメタルバンド。 「イッツキュウt!!オウケイ牛!! アイ、ヘイt、フォウk!! アイ、ラv、メタl!!ハッハッハッハ、 ティー、エム、エヌ、ダァンメェイ!!ハッハッハッハッハッ、 オォウケェイ牛!!!! レェツ、ラアアアアアアアアアアアア」 おぉう。皆、ヘドバンで髪を振り乱しながらプレイしているじゃないか。 西洋の歌舞伎者たちを気取った強面たちが耳をつんざく爆音をブチかまし、 フォークデュオの演奏を完全にシャットアウト。 更には、このメタル集団について来た大勢の取り巻きが、 純朴な大人しい青年2人組の周りを物凄い勢いで走り回り、 サークルピットを成してしまった。 これこそまさに枯山水にブルドーザーが突っ込んできた状況ではないか。 それでも構わず演奏を続けているフォークデュオ。 「ヴァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!!!」 という奇声の後、ふと姿を消すメタル集団。 「月は、河に、落ちて……」とサビを歌い出した2人。 途端にまた重金属サウンドが爆走を再開、渾身のサビを邪魔する。 ここからはフォークとメタルの大喧嘩が展開され、 両者の音がヘッドフォンの両方でグルグルと入り乱れる。 が、それが何故かリズムが妙にマッチして、 異質の2曲が融合してしまっているような一体感すら生まれている。 最後は「ラァキ!(?)」という叫び声で静寂へ。 最早"キネバラ"というジャンルすら確立してしまった木根と、 作詞作曲に関してはほぼ完全に他の人間に依存しているウツ。 作詞については、TM NETWORK名義で「INNOCENT BOY」があり、 小室と木根の連名で作詞作曲、1分20秒程度の「GIVE YOU A BEAT」がある。 今回は木根とウツ、双方初の単独作詞作曲である。 にもかかわらず、王様のアイディア、もとい小室の思い付きによって 2曲が合体してしまった。 大マジなフォークソングを作った木根としては 不本意なものになってしまったのだろうが、 (ちゃんとサビも聴いてもらえないし) このトラックもまた、前曲と並ぶ大胆な試みがなされたものである。 TMNの3人は、この後ソロ活動を展開していくが、 木根はソロでも作詞作曲の両方を行い、 後年の再始動後のTMでは「N43」で作詞作曲を手掛ける。 ウツもソロにおいて若干の作曲を行うようになっていたが、 特にこの後3〜4年で目立ったのは、 石井恭史(後に石井妥師)とのユニットBOYO-BOZOでの作曲活動である。 作詞に関してはこの後、2001年のソロアルバム『LOVE-iCE』の オープニング曲「Energy Source」以外行っておらず、 ウツが単独で作詞作曲を共に担当したのは、 TMでもそれ以外でも、現在まで「I Hate Folk」のみ。 上記のソロ活動を経てTMN終了に際し、 木根作詞、ウツ作曲による「ANOTHER MEETING」も制作された。 「月の河」は、上記の通りアコースティックで素朴なラブソング。 ウツと木根の"ザ・幼馴染"が2人で弾き語る。 この曲のみ単独で、「TMN EXPOスペシャル」で放映されている。 作者の木根はこの曲の扱いを不憫に思って自らセルフカバーを行い、 ミニアルバム『RUNNING ON』(2002年)に収録した。 (2015年に再発された木根の1993年の2ndミニアルバム 『NEVER TOO LATE 〜夢のつづき〜』のボーナストラックにも収録) 「I Hate Folk」は所謂"メタル"と呼ばれる音楽性だが、 メタル的様式美よりも、ただただ場をブッ壊そうとするパワーが漲る、 ハードコアなものになっている。 前作『RHYTHM RED』における所業に続いて、 「FANKS」の3要素の一つ「PUNK」が、ここでも実行されたのである。 また何気に、TMNというグループ名がコールされる唯一の曲である。 その後すぐに「Dame」と否定されてしまうが。 2曲別個のトラックを音源化してほしいが、 「I Hate Folk」はハナから「月の河」と絡めるつもりだったのだろうから、 フルバージョンが存在しないのかも知れない(パーツ毎に録ったというか)。 そして重要なポイント、「I Hate Folk」のボーカルは木根である。 前作収録の「LOOKING AT YOU」でシンガーデビューした木根が、 このおふざけ曲でまた新たな境地を開拓した。 ただ、叫び過ぎて頭が痛くなったらしく、このスタイルは今回限りである。 尚、ギターは葛G、ベースはウツ、ドラムは小室。 実は葛Gも当時「フォークは嫌いだ」とメンバーに言い放っていたらしい。 (下記「TMN EXPOストーリー」より) 実はこの2曲のぶつかり合い、 単なる"フォーク VS メタル"の構図の提示ではなく、 "内なる2つの人格のせめぎ合い"をも表しているのではないか。 本当はフレンチポップをやりたいんだけどデスメタルをやらされている 「デトロイト・メタル・シティ」のクラウザーさんこと根岸宗一の様に、 「メタルやりたいけど女の子たちに退かれるからフォークやってます」 みたいな感じだったりして。しかし本当は、 「安西先生……メタルがしたいです……」 ↑なんで安西先生が出てくる。 この2曲が象徴するフォークパビリオンとメタルパビリオンは、 「EXPO」ツアーの名物コーナーでもあった。 一方はウツと木根(たまに浅倉も)がTM楽曲をアコースティックアレンジし、 日本のフォーク、ニューミュージックのカバーも交え披露。 もう一方は上記編成+ボーカルは木根でなくべーあんで、 欧米のHR/HMのカバーを行う企画だった。 拓郎とエアロ、陽水とガンズが同じセットリストの中に並んでいるという面白さ。 双方をフォロー出来ていたのは当時、THE ALFEEとTMNしかいなかった。 ○あの夏を忘れない (詞:坂元裕二 曲:小室哲哉) 打ち寄せる波、真夏の海を想起させる爽やかなイントロ。 前半の楽曲とは異なりボーカル、歌心を重視したような、 かなり歌謡曲に近寄ったナンバー。 前曲(の一部)同様、日本語タイトルが復活の兆しを見せている。 アレンジはハウスを基調としており、跳ねるようなリズムに、 清涼感と哀愁を混ぜ合わせたようなメロディが詞の世界を引き立たせる。 歌詞は坂元氏によるトレンディドラマ的な世界観。 A・Bメロでは、夏の恋模様が今まさにその場で繰り広げられている。 「キスが終わるまで、夏が立ち尽くすよ」 「終わる恋に、始まる愛」 真夏の海で結ばれた2人。 主人公は、この想いが色褪せず続くものと思っていたのだろう。 燃え上がるような「恋」が、穏やかな「愛」に変わっていっても、 「君」への想いは変わることはない、と信じたかったのだろう。 10代後半から20代にかけての、ときめきだらけの青春時代も、 やがて終わりを迎え、誰もが大人への道を一歩一歩進んでいく。 いつまでもこんな輝いた季節に留まっていられる訳ではない。 だから主人公は、この季節が、この青春時代が過ぎ去っていくのを恐れ、 「君」とこの場所に留まっていたいと願っていたのだろう。 しかし、結局は2人がそれぞれの道を歩んでいったことは、 サビの歌詞が示唆している。 同じ年にB'zが発表した「もう一度キスしたかった」と似たような 別れ方だったのだろうか、と推察したりするが、それはともかく、 「あの夏を忘れない」とはつまり、 「君」と過ごした夏がもう過去の話だということを示している。 「君のいない一秒は、まるで永遠のよう」 つまり主人公のそばに「君」はもういない、ということだ。 無常なる世の中、止めることの出来ない時の流れの中で、 過ぎ去りし季節、過ぎ去りし恋に想いを馳せ、 今も尚、想い出を捨て切れずにいる男の姿を描いた曲、という訳だ。 曲の最後はサビの歌詞のフレーズが延々繰り返され、 そこに「スタンダンダンダンダラスダン♪」というスキャットが絡み付く。 遠ざかっていく夏の情景に惜別の念を込めるように、 最後はこのスキャットで締め括られる。 翌1992年にリリースされる小室のソロ曲「Magic」は、 この曲の流れにある歌詞だと言われているが、 「君」から別れを切り出された「僕」の諦め切れない想い、 というところだろうか。 同じく小室ソロの「I WANT YOU BACK」(1989年)が 「金曜日のライオン」の流れにあるといわれ、これと似たような関係なのだろう。 しかしこれもイントロや間奏が長い。 基本的に同じフレーズがコードを変えながら続いていくだけなので、 冗長さは否めないのではないかと思う。 イントロは1分半もある。 個人的に長いと思う「Jean〜」でも50秒程度であるが、 この曲は1分24秒。「GET WILD '89」の1分33秒に匹敵する。 「RHYTHM RED BEAT BLACK」でも1分11秒ある。 1分34秒ある「WORLD'S END」はプログレ的構成なので然程違和感はないし、 「GET WILD '89」も「RHYTHM〜」もダンスに力点を置いているので このくらいの長さがあっても良いのだろうが、 この曲のような歌モノポップスでこの長さは異例に思える。 歌詞中の青春時代に対する捨て切れない想いを表しているのかも知れない。 却って哀愁をかき立てられるので良いかなとは思うのだけれど。 もう一つ気付いたのは、「カモン」の表記を「C'mon」としている所。 歌詞の深い意味も分かっていなかった中坊の頃だったが、 カモンレツダンスとかカモンエビバデとかの「Come on」には こんな綴り方もあるのか、と感心したものだった。 B'zも20年後には『C'mon』というアルバムを出しているし。 この曲は『CLASSIX 1』に「motion picture mix」が収録されている。 「GIRL」と並び、ウツにいたく気に入られているというこの曲。 「GIRL」はタイアップがついたら売れるとか言われたものの付かなかったが、 こちらは西田ひかる主演のドラマの主題歌に起用された。 タイトルは「ハイレグクィーンロマンス ピットに賭ける恋!」だったらしい。 物凄ぇタイトルだな。 当時人気ありましたねぇ、西田ひかる。英語ペラペラだったし。 後年、何故か「烈火の炎」の主題歌を歌ってましたけど。 ○大地の物語 (詞:小室哲哉 曲:木根尚登) カメリアダイヤモンドのCMソング第3弾。 小室作詞・木根作曲という珍しいコンビネーションによるキネバラである。 TMにおいてこれ以外には、当時未発表だった「TIMEMACHINE」や、 後年の『SPEEDWAY』収録の数曲の例があるが、 CDリリースとしてはこの曲が初めて。 タイトルも上記『SPEEDWAY』の制作の切っ掛けとなった SPEEDWAY時代の楽曲にありそうな感じ。 「神話」や「眠りの森」のような神妙性がある。 但し、どちらもデビューアルバム『THE ESTHER』(1979年)収録曲なので これらの曲に小室は関わっていない。 「帰れない……」という歌い出しのカットインは何気にインパクト大。 「おや、誰かこの博覧会で迷子にでもなったかな」と あらぬ誤解を招きそうな感じがするのは多分気のせい。 ウツのボーカルとピアノの音から始まるこの曲は、 力強いバンドサウンドを主体とした、TMNなりのパワーバラード。 ここまで5、6分を優に超えるアップナンバーが多かったが、 このバラードは4分程度とコンパクトに纏まっている。 間奏では葛Gが泣きのギターソロを響かせてくれる。 サビの木根のコーラスがやや大きいのが気にはなる。 全体的にリバーブの掛かった音の中で、 木根のコーラスだけリバーブ無しでエフェクトが掛かっているので、 大きく聴こえるだけなのかも知れない。 歌詞は、本作における「We Love The Earth」の続きのような内容だと思う。 (シングルバージョンのではなくて) リバーブの効いた音のせいか、靄がかった森の中がイメージされるのだが、 「We〜」に登場する男女が、長い旅路のにこの森の中で出逢い、 人間たちが皆去ってしまったこの地球上で、 新たな時代のアダムとイブに選ばれる……というような、 そんな神秘性を湛えているように思える。 サビの歌詞のせいだろうか。 「瞳には青い空、左手に風が吹き……」といったくだり、 目の前の女性を地母神か何かに見立て礼讃している。 そして、最後に「I love you」で締め括り、 遠回しに、大袈裟に、この女性に対する愛を語っているのだ。 いや、そもそもはもっと卑近な、下世話な話なのかも知れないが。 ある男がコンパか何かで知り合った女性を強引に連れ出して、 夜の公園で愛の告白をしてしまう……という歌詞かも知れない。 (関係ないが、木根の1993年の小説「いつか見た遠い空 武蔵野蹴球団」に そんな感じのシーンがある) その男が空とか風とか大地とか大いなる自然を持ち出して 彼女を大袈裟に褒め称えながら口説いている、とかだろうか。 彼女は苦笑いするものの、男はそれを「微笑み」と勘違いして、 「君の微笑みを大切にしたい I love you...」とか言ってしまうという。 そんな台無し設定を考えてしまいごめんなさい。 そう考えると、「Just Like Paradise」の続きなんかも知らんなこれ。 後にリミックスアルバム『CLASSIX 2』に収録されたが、 リミックスではなくオリジナルバージョンのままとなっている。 『GROOVE GEAR』には「TMN WILD HEAVEN」でのライブ音源を収録。 また、木根がソロ20周年の2012年にセルフカバーを行い、 TM楽曲カバーアルバム『キネバラ』に収録している。 ○月はピアノに誘われて (詞:坂元裕二 曲:木根尚登) 前作『RHYTHM RED』収録の「LOOKING AT YOU」に続く、 木根のリードボーカルによるキネバラ第2弾。 本作で木根がボーカルを務めるのは一応「I Hate Folk」に続いて2曲目。 本作のキーワード「月とビアノ」がそのまま盛り込まれており、 ファンの間では「月ピ」と略されることもある。 タイトル通り、月の光に照らされたピアノでメロディを奏でているような曲。 木根は、自分がステージの上で歌っているのをイメージして作ったという。 アレンジは久保浩二(久保こーじ)が担当したとのこと。 上記「Crazy For You」でもチラッと名前を挙げたが、 TM時代からローディーとして帯同し、 数年後に「小室の一番弟子」を自称する程に 小室プロデュースの全盛期を支えることとなった人物である。 ボサノバ風のアレンジを取り入れており、 世間一般での正統派歌謡ポップスとも、 或いはAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)ともいえる仕上がりである。 イントロでは、ピアノとギターがそれぞれ3連のフレーズを奏でる。 歌い出しに入ると、曲調はボサノバに変わり、 葛Gが爪弾く12弦ギターの音色と共に、木根がピアノを弾き語る。 昔の恋人である「君」とふとした事で再会した主人公が、 「諦めた二人の愛をもう一度」と「君」に囁くという、 「Love Train」とも共通する内容の歌詞である。 かつて何らかの理由で離れなければならなくなった2人。 別れの夜、主人公は最後の接吻にひっそりと 「言葉にならない約束」を込めていたのだろう。 「いつの日かまた逢えたなら、もう一度やり直そう」と。 ここで諦めれば、互いに傷付くことなく済むだろうが、 この先未練を残したまま生きていくことになるかも知れない。 だから主人公は今一度、「君」と共に歩んでいくことを決意したのだ。 木根はこのタイトルで小説を執筆し、アルバムリリース前の7月に発売。 父の芸能事務所の再建を目指す杉本暁美(27)と 売れないをぢさん4人組、ブルースネットワークの 汗と涙と友情の日々を描いた作品である。 が、小説の内容はこの歌詞とはあまり関係がない。 関係あるとすればラストのシーンだろうか。 同小説には、TMN自身や小室をモデルとした小ネタが幾つか登場する。 おそらく木根のソロライブでも度々演奏されていると思われるが、 TMでは30周年ツアー「QUIT30」の東京公演で、一部だけ披露された。 (他日程では「LOOKING AT YOU」の一部が披露された) その後、30周年の締め括りに行われた「30th FINAL」でも、 ギターに葛G、パーカッションに若手サポメンのRuyを従え3名で披露された。 ○Tomorrow Made New (詞:坂元裕二 曲:小室哲哉) 「RHYTHM RED」ツアーの置き土産である、ミドルテンポのロックナンバー。 長めのイントロは最早常習犯。ワンコーラス分の長さがある。 3連のシャッフルのリズムや、終始流れ続けるハモンドオルガンの音等、 スペースロック的な浮遊感、漂流感が全体を支配している。 間奏のハモンドソロと、全体のバッキングのギターは特に格好良いと思う。 しかし全体的に歌メロが平坦で起伏に乏しい。 歌よりも演奏を聴いて浮遊感に浸って下さい、ということなのか。 タイトルの意味は「明日が新しくなった」なのかどうかだが、 このタイトルの3単語を頭文字だけ抜き出すと「TMN」となる。 グループ名に合わせる為に単語をそれらしく並べただけだろうか。 この"略称TMN"は、既にTMから離れていた母に指摘されて気が付いた。 坂元氏の歌詞は、抽象的表現が満載で難解なものになっている。 幾つか気になるフレーズを抜き出すと、「永遠と名付けよう」という一句は、 同年の小室ソロ曲「永遠と名づけてデイドリーム」への布石か? 「聞こえてくるだろ 月とピアノの悲鳴」には、 本作のテーマ「月とピアノ」をこっそり紛れさせている。 「幼年期の終わりから生まれ変わるStarchild」は、 アーサー・C・クラークの著作からのインスパイアだろう。 TMの2ndアルバムのタイトルとも一致するし、 「Starchild」は「2001年宇宙の旅」(1968年)に登場する。 坂元氏なりに初期TM NETWORKをダブらせているものか。 そして「Moonage Daydreamer」は、 デヴィッド・ボウイの「Moonage Daydream」(1972年)の捩りだろう。 ちなみにこの歌詞で「躰(からだ)」という文字を初めて見たのだけど、 最初は「鉢」に見えた。 「ふるえるおまえの歌で、この鉢に火を付けろ」 …………どういうことや一体。 一見(一聴)して何についての歌なのかが分かり辛いのだが、 宇宙空間に放り出された主人公と「おまえ」の絶望的な状況を 開き直った態度で受け入れようとしている様なのだろう。 「どの道俺たちは助からない、この宇宙の藻屑となるしかない。 それか運が良ければ、何かの映画みたいに人ならぬ者にでも進化出来るかもな。 お前と一緒なら、それも良いな……」 等と思っているのだろう。 そうなると、「パノラマジック」とも共通するテーマの歌であり、 麻生氏の書いた「アストロノーツの悲劇」を坂元氏なりに解釈した、 といったところなんじゃないだろうか。 TMとしては珍しく二人称が「おまえ」なのも「パノラマジック」と同じ。 (但し「パノラマジック」では「君」との併用が見られる) 前作『RHYTHM RED』用に作られた曲だろうが収録されず、 同アルバムのツアーにおいて初めて披露された。 ライブビデオ「WORLD'S END I」にその模様が収録されたが、 このビデオで聴かれるものは歌詞の大部分がスタジオ版と異なっており、 テンポが若干遅く、Bメロの前半にシンセソロが入っている等、 ボーカルの入りそうな余地がまだまだあり、未完成臭が強く、 「まだこれから煮詰めるつもりだったんだろうな」と思わせるものがあった。 にも関わらず「リズレバージョンのほうが良い」という声が少なからず聞かれ、 折角完成させてもらったスタジオ版は立つ瀬がない状況になっている。 確かにスタジオ版は、何か迫力に欠ける面もないとは言い切れない。 ミックスの問題もあるのか? 「RHYTHM RED」ツアーでは、同じく略して「TMN」となる インストゥルメンタル「THRILL MAD NATURAL」(未CD化)も演奏された。 このタイトルも、「Natural」は「Nature」とした形で 本曲の歌詞に盛り込まれている。 ○Think Of Earth (詞曲:小室哲哉) 風の吹き荒ぶ、暗い世界が浮かんでくるイントロ。 かなりトーンを落としたピアノの音色。 リズムも、誰かが虚ろな目でとぼとぼと歩いているような響きだ。 かつて栄えたものの、そこに棲まう者たちの愚行によって荒廃した惑星。 側から見れば繁栄が続いているが、それは翳りに満ちていた。 "夢を叶えた"と言えば聞こえは良いが、その代償は計り知れない。 しかもその代償をも見て見ぬ振りをしながら、彼らは生きてきた。 生きていく為に、そうするしかないと思ったからだ。 その後、演奏にはアコースティックギターやドラムも加わり、 ずーんと暗く重い音が続いていく。 メロディもただただ暗く重い。 この惑星に生命が誕生してから、ずっと繰り返されてきた過ちの歴史。 その行いを一つ一つ拾い上げ、悔やみ、嘆き悲しんでいるようだ。 ピンク・フロイドの「Shine On You Crazy Diamond」(1975年)を 意識したであろうこの曲。 暗い世界を彷徨うローテンポな演奏が4分程続き、 メロディも僅かに光が差し込んできた辺りで、ようやく歌が入る。 しかも、リードボーカルは小室だ。 TM楽曲では小室の単独リードボーカルはこの曲のみ。 「まぁちぃ〜のぉ〜ひぃお〜〜〜……」と、 あのモスキートボイスで、一字一句ゆっくりと唱える。 歌詞からすると、まさにイラストの3人(+α)が、 ピアノ型宇宙船から地球の姿を眺めて歌っているのだろう。 (これもまた小室の俯瞰癖か) 3人の潜伏者は、虚栄に満ちた悲しい惑星を、そしてそこに棲まう者たちを、 憐れむように、そして慈しむように見つめている。 演奏がスローダウンして一度途切れ、キーを上げて再び始まる。 暗い世界に、夜明けが訪れたかのように。 「Think there is no space, Think there is no mercy」 ジョン・レノンの「Imagine」(1971年)の如く、潜伏者たちは訴えかける。 コーラス(ウツ、木根、葛G?)が加わり、大団円へ。 潜伏者たちが祈るように歌う、「宇宙(そら)からのメッセージ」。 最後の女性の声は、「Think Of Earth」。 アウトロは再びイントロと同じキーで、同じフレーズを演奏。 但しイントロと異なりアコースティックギターも加わっている。 この音楽博覧会の最後のパビリオンは、 「実はこの博覧会の裏テーマは"地球について考えよう"でした」と言わんばかりに 長く、重々しいエンディングテーマであった。 終了前の楽曲に限れば、オリジナルバージョンでは 「ELECTRIC PROPHET(エレプロ)」と双璧をなす長尺曲である。 それこそ「エレプロの作り変えじゃないか」と思ったりもしたが。 メッセージ性を重視した曲という点でも共通するし。 しかし「エレプロ」と異なるのは、 "君と僕"というパーソナルな範囲で歌われる「エレプロ」に対し、 世界人類に向け呼び掛けるのが「Think Of Earth」、というところか。 そして、それに反比例するかのように、 色々なことを長々と語る「エレプロ」と比べ、 簡潔に、要点だけを述べ伝えるのが「Think Of Earth」であった。 しかしこのイントロの長さ。 「Jean〜」「あの夏を〜」「Tomorrow〜」よりも長い。 歌モノでここまでイントロを引っ張るのもまた稀有なケースじゃないのか。 或いはそれこそフロイドの「Shine On〜」のように、 インストゥルメンタルパートとボーカルパートの2部構成と考えるべきか。 (「Shine On〜」は全部で9つのパートがある) プログレに慣れてなきゃ「長ぇなーこのイントロ」としか思わないのだろうけど。 福岡県北九州市に「スペースワールド」というテーマパークがあった。 聖飢魔IIのエース長官とルーク参謀もCMに出演なさったが、 「大したこと、ないネ」と仰せであった。 私は多分1回か2回ぐらいしか行った記憶がないのだが、 (福岡市内からはそんなに近くないのですよ) そのスペースワールドの開園1周年記念の企画として、 1991年4月20・21日に小室ソロ名義でのスペシャルライブが行われた。 タイトルはズバリ「SPACE WORLD」であった。 2日目は偶然にも『CAROL』に登場する日付と一致し、 その為もあって、『CAROL』からの楽曲も演奏されている。 サポートには葛G、べーあん、浅倉が参加。 このライブで新曲として披露されたのがこの曲であった。 5年後の1996年、幕張で行われた小室のスペシャルライブ「tk-trap」でも 「CAROL」組曲等と共にこの曲が披露された。 (その際は小室ではなく、trfやEUROGROOVEの楽曲に参加した ゲストシンガーたちがボーカルを務めた) 尚、スペースワールドは2018年の年明けをもって閉園。 最後に行われたカウントダウンイベントにて、 BGMにこの曲が流れたという話も聞く。 ・・・ と、ここまで『EXPO』の各パビリオン、もとい各トラックを見てきたが。 このアルバムの曲は「過去の自分たちの振り返りと再構築」なんだと思う。 フォークから始まり、プログレやAORを経て、 ラップやラテン等を盛り込み、ハウスを導入してのダンスサウンドを再現し、 物語音楽を作り、そしてそれらを一旦(ハードコアで)ブチ壊しにし、 かと思いきやカラオケ向け歌謡ソングにまで手を出し……。 こういった「これまでの3人の音楽の蓄積」を再現した博覧会が、 この『EXPO』なのである。 デビューよりも昔から彼らがトライしてきた様々な音楽性が1枚に集約された、 「TMNのEXPOSITION」、ということである。 となると、一曲目の「EXPO」のリバース音は、 「原点への回帰」を表す音なのだと思う。 とはいっても、前半はかなりダンス色が強い。 曲毎に微妙にスタイルを変えてはいるものの、 ハウスミュージック主体のダンスナンバーが前半を占めている。 この辺は、10年後に小室がglobeとして制作したアルバム 『outernet』(2001年)とも構成が共通する。 前半をトランス路線のエレクトロサウンドで固め、 後半にオルタナティヴロック色の強いポップナンバーを並べている。 しかも後半は木根の提供曲(小室と連名)があり、 アレンジに久保が参加する曲もあるという点まで一致する。 そして本作にて随所に現れる、「地球に対する想い」。 "地球環境問題"が殊更に強く取り上げられるようになったのが 80年代の終わりか90年代に入ってからのような気がするのは、 私がそれまで物分かりの悪い餓鬼だったからかも知れないが、 (今でも物分かりは良くないですが) 世紀末やノストラダムスの予言の日が刻一刻と近付いていた為に そういうムードになっていった、というのもあるのではないかと思う。 本作において「地球について考える」というテーマが持ち込まれたのも、 そんな"終末"的なムードに引っ張られたものかも知れないし、 前作のコンセプト「終末への疾走」の延長として、 「いつかこの世の終わりは来てしまうかも知れないけれど、 せめて僕らの目の黒いうちは、僕らの棲む地球をもっと大切にしよう」 というメッセージが生まれたと考えても良いのかも。 そしてそこには、「音楽の博覧会」という点も含め、 「地球の文化や人間の営みを調査する潜伏者」という 30周年関連の後付け設定とも合致するところがあるのではないか。 また、これも結構重要かも知れないので一つ触れておくと、 「作詞:小室みつ子」が本作にはない。 長年の間、TMの良き理解者であり続けている彼女の作詞曲が、 この『EXPO』には収録されていない。 これはTM始まって以来の異例の事態であった。 とはいえ、みつ子氏の作詞曲がこの時期になかった訳ではなく、 「何処に入れてもボーナストラックのようにしか聴こえない」という理由で アルバムから外されたという事情があった。 当該曲「WILD HEAVEN」は、本作発売から2ヶ月後にシングルカット。 カップリングには前年リリースされたクリスマスソングの別ミックス 「Dreams of Christmas ('91 NY Mix)」が収録。 これもアルバム収録候補だったという。 このアルバム発売に伴い行われた「TOUR TMN EXPO」の内容は、 ドキュメンタリー本「TMN EXPOストーリー(上・下)」として執筆された。 こういうのを書いてくれた藤井徹貫に感謝したい。 徹貫といえばファンから(あの独特の文体からか)非難ばかり受けているし、 実際随所に入ってくるフィクション部分は余計なのだが、 当時のライブの雰囲気が事細かに伝えられたドキュメンタリーは貴重だと思う。 「TOUR TMN EXPO」は、ホール公演からファイナルのアリーナ公演まで、 年を跨いで行われる長期ツアーとなった(これに限った話ではないが)。 途中NEC主催の「TMN WILD HEAVEN」や ローソン主催の「PARTY PAVILION」というイベントライブも行われ、 小室はミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」サントラの制作、 YOSHIKIとのユニットV2の楽曲制作とライブ、 クラブイベント「TK TRACKS NIGHT」開催、と多忙であった。 更にこの時期、小室も木根も執筆活動を並行していた。 V2としては「なるほど・ザ・ワールド」への出演もあった。 小室が(YOSHIKIもだけど)クイズ番組に出演する等これが最初で最後だろう。 YOSHIKIはたまに「芸能人格付けチェック」とかに出てるけどね……。 小室はこのツアーについて、 「これが終わった後、きっと月が今までと違って見えるよ」とも、 「まるでサーカスのようだ……(同じことの繰り返しの意味で)」とも 言ったという。 3人共、疲弊していたようだ。 このツアーの後、TMNはしばし活動を休止する。 「ちゃんとした活動は1992年まで」と 「TK MUSIC CLAMP」(1995年)にて小室が発言しているので、 ここでTMの活動は実質終わったと考えても良いのかも知れない。 その後の活動継続の意思をちらつかせはしたが、 結局のところTMはこの2年後に「終了」を宣言する。 実際、これから2年間の活動は、ここまでの8年間の総括のようですらあった。 ライブ音源の編集盤があり、リミックス集があり、 締め括りとしてのベストヒットライブがあった。 1986年の「TM VISION V」にて、 小室は「自分の活動は5年周期」と発言しているが、 「EXPO」ツアーが完結した1992年4月というのは、 「Get Wild」が世に出て5年だった。 デビューからは既に8年になるのだが、ブレイクからは5年ということになる。 ブレイク後の一区切りが、ここでついてしまったということか。 ともかく、これまでの音楽体験の集大成を見せた3人の潜伏者は、 この博覧会の会期終了と共に、忽然と姿を消した。 そして博覧会を終えもぬけの殻となってしまった宇宙船は…… コロシアムと化していた。 <2021年3月14日更新> ・・・
by inako0131
| 2014-05-01 21:34
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